ニュース News 202506.24 言語を超えて:ジェスチャーがバイリンガルの脳における話語理解と記憶保持に与える影響 Posted in 研究 私の研究は、ジェスチャーという人間にとって本質的で自発的、かつ多様なモダリティを含むコミュニケーション手段が、特に第二言語(L2)の文脈において、どのように話語の理解と記憶保持を支えるかを探るものです。これまでの研究では、母語(L1)におけるジェスチャーと言語の統合に関連する神経基盤として、中側頭回(MTG)、下前頭回(IFG)、海馬傍回などが指摘されてきましたが、L2における神経メカニズムはまだ明確ではありません。私の研究ではこの点に焦点を当て、ジェスチャーがL2のスピーチ処理に特に有益であり、なかでも左後部中側頭回の活動がL2の言語記憶を支える上で重要な役割を果たすことを明らかにしました。今年、私は国際ヒト脳マッピング学会(OHBM)に参加し、自身の研究成果を発表するとともに、他分野の研究者たちの研究から多くを学ぶ貴重な機会を得ました。 OHBMは学際的な会議であり、コンピュータサイエンスや機能的結合性、認知神経科学など、さまざまな分野の研究者が集まります。多様なバックグラウンドを持つ方々が、人間のインタラクションにおけるジェスチャーの普遍性に共感し、実験デザインや結果、さらには多言語コミュニケーションにおけるより広い視点について、示唆に富んだ質問や洞察を寄せてくださいました。 特に印象的だったのは、Paul Thompson博士による開会基調講演です。Jean Talairachによる脳空間標準化の先駆的研究から始まり、現代のAIによって進展する脳科学の最前線——脳活動のデコーディング、精神状態のAIによる分類、さらにはDNA情報から顔を再構成する技術に至るまで——を紹介されました。なかでも心に残ったのは、博士の「科学はデータだけではない。協働者は何千年にもわたる知識と経験、多様な視点、新たな洞察をもたらしてくれる」という言葉でした。 今回のOHBM参加は、知的刺激に満ちていただけでなく、人間の脳に対する相互理解を深めるうえで、学際的な対話の重要性を改めて実感する機会となりました。 添付ファイル 一覧へ戻る 前の記事 一覧へ戻る 次の記事 アーカイブ 月別 2025年07月2025年06月2025年05月2025年04月2025年03月2025年02月2025年01月2024年12月2024年11月2024年10月2024年09月2024年08月 年別 2025年2024年2023年2022年2021年2020年2019年2018年2017年2016年
私の研究は、ジェスチャーという人間にとって本質的で自発的、かつ多様なモダリティを含むコミュニケーション手段が、特に第二言語(L2)の文脈において、どのように話語の理解と記憶保持を支えるかを探るものです。これまでの研究では、母語(L1)におけるジェスチャーと言語の統合に関連する神経基盤として、中側頭回(MTG)、下前頭回(IFG)、海馬傍回などが指摘されてきましたが、L2における神経メカニズムはまだ明確ではありません。私の研究ではこの点に焦点を当て、ジェスチャーがL2のスピーチ処理に特に有益であり、なかでも左後部中側頭回の活動がL2の言語記憶を支える上で重要な役割を果たすことを明らかにしました。今年、私は国際ヒト脳マッピング学会(OHBM)に参加し、自身の研究成果を発表するとともに、他分野の研究者たちの研究から多くを学ぶ貴重な機会を得ました。
OHBMは学際的な会議であり、コンピュータサイエンスや機能的結合性、認知神経科学など、さまざまな分野の研究者が集まります。多様なバックグラウンドを持つ方々が、人間のインタラクションにおけるジェスチャーの普遍性に共感し、実験デザインや結果、さらには多言語コミュニケーションにおけるより広い視点について、示唆に富んだ質問や洞察を寄せてくださいました。
特に印象的だったのは、Paul Thompson博士による開会基調講演です。Jean Talairachによる脳空間標準化の先駆的研究から始まり、現代のAIによって進展する脳科学の最前線——脳活動のデコーディング、精神状態のAIによる分類、さらにはDNA情報から顔を再構成する技術に至るまで——を紹介されました。なかでも心に残ったのは、博士の「科学はデータだけではない。協働者は何千年にもわたる知識と経験、多様な視点、新たな洞察をもたらしてくれる」という言葉でした。
今回のOHBM参加は、知的刺激に満ちていただけでなく、人間の脳に対する相互理解を深めるうえで、学際的な対話の重要性を改めて実感する機会となりました。